~その特性と新造船「セブンアイランド結」の紹介~
共有船舶建造支援部 技術支援課厳しい海象条件のため、従来大型の貨客船しか就航できなかった航路に、
高速船の就航を可能としたのが、「ジェットフォイル」の登場だ。
その特性とともに、25 年ぶりに国内で建造された「セブンアイランド結」を紹介する。
鉄道・運輸機構だより2020夏季号
「セブンアイランド結」と命名され、着水するジェットフォイル(画像提供:東海汽船(株)、以下同様)
~その特性と新造船「セブンアイランド結」の紹介~
厳しい海象条件のため、従来大型の貨客船しか就航できなかった航路に、
高速船の就航を可能としたのが、「ジェットフォイル」の登場だ。
その特性とともに、25 年ぶりに国内で建造された「セブンアイランド結」を紹介する。
鉄道・運輸機構だより2020夏季号
「セブンアイランド結」と命名され、着水するジェットフォイル(画像提供:東海汽船(株)、以下同様)
運航時間を8時間から1時間45分に短縮
東京から、百数十kmから300kmの太平洋上に点在する伊豆諸島。東京からの主要航路は、大島、利島、新島、式根島、神津島への航路と三宅島、御蔵島、八丈島への航路の2つがあり、この航路を運航しているのが東海汽船(株)である。
同社は、明治22年に東京湾の小型貨物船の会社として設立された東京湾汽船会社を嚆矢(こうし)とする。明治24年4月には伊豆諸島航路に進出。明治40年には、当時の東京府と契約を結び、東京と伊豆諸島を結ぶ航路が開始された。
鉄道・運輸機構(当時は特定船舶整備公団)との共有船は、昭和37年に建造された「あじさい丸」が第1船で、前述の2航路にそれぞれ就航している貨客船各1隻は、鉄道・運輸機構との共有船である。
これらの航路は、海象条件の厳しい航路のため、従来は大型の貨客船しか就航できず、東京からは時間をかけないと到着できない(東京から大島までは8時間)という利便性の悪さが欠点であった。
しかし、平成14年に、「セブンアイランド愛・虹・夢」の3隻のジェットフォイルが竣工、東京~大島間をそれまで8時間を要していた航路を、わずか1時間45分で結ぶことが可能となり利便性が格段に向上した。平成25年には、「セブンアイランド友」が就航し、4隻体制となった。平成27年には「セブンアイランド夢」に代わり「セブンアイランド大漁」が就航している。
なぜ、それまで大型船しか就航できなかった航路に、高速船が就航可能であったのか? それを可能とした「ジェットフォイル」とはどんな船なのか? そして、「ジェットフォイル」は今、どのように建造されているのか? それらを以下に紹介したい。
仕様変更は不可能
まず、「ジェットフォイル(Jetfoil)」というネーミングだが、これは造船工学上の分類もしくは名称ではなく、開発を行ったボーイング社の呼称である(現在は川崎重工業(株)の登録商標)。
元々は、ミサイル艇(929型)として開発された技術の民間転用で、民間用(旅客船)の開発は昭和49年で、「ジェットフォイル」の名前もこの時に付けられた。
その後、ライセンスが川崎重工業(株)に提供され、平成元年に日本製1号艇(「つばさ」、佐渡汽船(株)、元共有船)が就航した。現在は川崎重工業(株)(神戸工場)に全面的に移管されており、「川崎ジェットフォイル929-117」として製造されている。川崎重工業(株)では平成元年から平成7年までに15隻が製造された。
他の船舶と異なるのは、重量管理および推進性能の点から、主要目はほぼ完成規格であるという点で、このため、例えば、船体を長くしたい、主機関を小さくしたい等の仕様変更は不可能となっている。
厳しい海象条件下が最適航路
ジェットフォイルの推進・操船システム
ジェットフォイルが他の高速船と異なるのは、飛行機と競争して勝てる船だという点にある。通常型の高速船よりはるかに優速であること、また耐航性の面から、通常型の高速船では就航できない海象条件の厳しい航路に適していることが挙げられる。逆にそれ以外の航路(他のタイプの高速船でも航路維持ができる)では、採算性等で不利になる可能性がある。現在就航しているのが、新潟~佐渡(佐渡汽船(株))、東京~伊豆諸島(東海汽船(株))、鹿児島・指宿~種子島・屋久島(種子屋久高速船(株))、長崎~五島(九州商船(株))、博多~壱岐・対馬(九州郵船(株))、境港~隠岐(隠岐汽船(株))であることから、特性が分かる。逆に、大阪・神戸~高松航路、神戸KCAT~関空航路は、現在廃止となっている。
改善された乗り心地
ジェットフォイルは、造船工学上は、水中翼船に分類される。水中翼船は、従来からあるが、ジェットフォイル登場以前の水中翼船は乗り心地が悪い船舶であった。なぜ乗り心地が悪いのか? これは、波浪中で翼に働く揚力の変化があるかないか、この違いによるものである。この違いを、上の図によって説明する。
これに加え、ジェットフォイルではコンピューターによる水中翼の能動的な制御技術(ACS:自動姿勢制御装置)が確立されたことにより、安定性を確保している。これらにより、海象条件の厳しい海域においても、安全な高速航行を可能としている。
さらに、高速航行を可能としているのが、ジェットフォイルの心臓部であるガスタービンとウォータージェットである。
ガスタービンは、一般的には航空機に搭載されているジェットエンジンとして知られている。圧縮した空気を燃焼室に送り込み、これに燃料を噴射、燃焼させることにより燃焼ガスを発生させ、この燃焼ガスによってタービンを駆動させ、連続して圧縮を行い、動力を得ている。航空機の場合、燃焼ガスを後方噴流(ジェット)として用い、これにより推進力を得て機体を推進させるわけだが、ジェットフォイルの場合、この燃焼ガスから出力を得て、ウォータージェットを駆動し推進力を得ている。
ウォータージェットは、船底から汲み上げた水を、主機関により駆動する高圧ポンプで、後方のノズルから水流を勢い良く吐出することで推進力を得る推進方式で、推進効率はプロペラに劣るものの、高速での航行に適している。一般的なプロペラよりも設計、製造は手間がかかるが、プロペラ船では到達しがたい40~50ノット(約74~93km/h)での高速航行を可能にする推進方式である。また船底部に突出部分がなく、浅水面での航行が可能であり、ノズルの噴射方向を変えることで船の向きを変えられるため、舵の必要がなく、ノズルの逆噴射機構を用いた急制動が可能であり、プロペラでは不可能な超微速航行が可能という長所を有している。
ジェットフォイルにはウォータージェットが2基装備してあり、1基で1分あたり90㎥もの容量の水を排出できる。これは、2分間で標準的な25mプールを空にできる容量である。ジェットフォイルの場合、後部水中翼の中央部にある海水吸入口より海水が吸い込まれ、ウォータージェットポンプにより後方に噴出される。水面や水中の浮遊物を吸い込んでしまう可能性もあるため、吸い込んだ場合、排出できるよう高圧空気によるブローダウン装置が装備されている。
今夏に就航予定の「セブンアイランド結」
これらの優れた特性を備えたジェットフォイルであるが、現在、伊豆諸島に就航しているものが老朽化してきたため、今回の建造となった。しかし、国内で建造されるのは、平成7年以来25年ぶりとなるため、川崎重工業(株)は資材調達、建造体制の整備に十分な時間をかけ、平成29年6月、東海汽船(株)および鉄道・運輸機構と建造契約を締結、令和元年5月に工事に着工、「セブンアイランド結」と命名されたジェットフォイルは令和2年3月に無事に着水を終え、令和2年6月に竣工、この夏に就航の予定である。
なお、本船のカラーリングデザインおよび「結」というネーミングは、東京オリンピック・パラリンピックエンブレムのデザイナーでもある野老朝雄氏によって行われた。また、今回のジェットフォイル内の、上下の客室を結ぶ階段には、車いすを利用される乗客に対応するための昇降装置を備え、上下の客室ともバリアフリー対応を進めた初めてのジェットフォイルとなっている。
新造ジェットフォイルの就航は、島民が心待ちにしているものであり、東京と伊豆諸島を結ぶ生活航路、そして観光の便利な足として今後の活躍が期待されている。