多種多様な構造物を、
全工区においてフル稼働で建設する
大阪支社 加賀鉄道建設所
平成34年度末の金沢・敦賀間完成を目指し、
建設工事が佳境を迎えている北陸新幹線。
トンネルから国内の鉄道橋最大の支間長となる橋りょうまで、
全工区が一丸となって建設を進めている
石川県加賀市の現場をレポートする。
細坪橋りょうの北側工事現場。必要以上に山を崩さず、狭い用地の中で橋脚の基礎を掘削していく
文・写真:栗原 景(フォトライター)
鉄道・運輸機構だより2019新春号
多種多様な構造物を、全工区においてフル稼働で建設する
平成34年度末の金沢・敦賀間完成を目指し、建設工事が佳境を迎えている北陸新幹線。
トンネルから国内の鉄道橋最大の支間長となる橋りょうまで、全工区が一丸となって建設を進めている
石川県加賀市の現場をレポートする。
細坪橋りょうの北側工事現場。必要以上に山を崩さず、狭い用地の中で橋脚の基礎を掘削していく
文・写真:栗原 景(フォトライター)
鉄道・運輸機構だより2019新春号
3年前倒しに全力で対応する14の工区
「あれはなんの工事だろう」
「北陸新幹線でしょう。前に来た時は全然なかったのに」
大阪行き特急「サンダーバード」の車内で、乗客が話し合う声が聞こえた。進行方向左側に、水田の中をまっすぐ延びる高架線の建設が進んでいるのが見える。この区間に乗車するのは1年ぶりだが、一段と建設が進んだ。
北陸本線の加賀温泉駅は、新幹線工事の真っ最中である。北陸新幹線金沢・敦賀間125.1kmが、約4年後の平成34年度末の開業を目指し建設中だ。平成29年5月から仮駅舎での営業を行っているが、駅横からは温泉旅館からの送迎バスがにぎやかに発着する。
そんな加賀温泉駅から5分ほど歩いた所に、加賀鉄道建設所がある。小松市内の高崎起点376.4km地点から、加賀市内を通って石川・福井県境付近である同396.0km地点までの約19.6kmを担当する建設所で、平成28年5月に、小松鉄道建設所から分離する形で発足した。高架橋や橋りょうなどの明かり区間(トンネル以外の地上区間)が15.5kmと全体の約8割を占め、トンネルは、石川・福井県境を越える5460mの加賀トンネルのうち石川県側の4.1kmを担当している。
「当建設所では、担当区間を14の工区に分けて建設を進めています。19.6kmの中にトンネルもあれば、明かり区間もあり、さらに明かり区間にも実にさまざまな種類の構造物があるというのが最大の特徴です」
ニコニコと顔をほころばせながら説明するのは、今年4月に2代目所長として就任した宮嵜俊彦所長だ。広島県出身の38歳。北陸新幹線の建設現場を数多く経験し、新幹線のエキスパートともいえる宮嵜所長だが、加賀鉄道建設所での仕事はこれまでにない挑戦だという。
「14の工区が同時にフル稼働で進行しているのです」
金沢・敦賀間は、当初平成37年度の開業予定だったが、3年前倒しして平成34年度末の開業が決まった。このため、昨年までにすべての工区の建設工事が発注され、現在、たくさんの人員が投入されて、全力で作業が進められているのである。
2切羽同時進行の加賀トンネル中工区
宮嵜所長の案内で、まずは 最も福井県寄りに位置する加賀トンネル中工区を訪れた。5460mの加賀トンネルは、三つの工区に分けられ、このうち北工区と中工区が加賀鉄道建設所の担当だ。山岳トンネルの中間工区では、進入のための斜坑を設けてから起点側と終点側を片側ずつ順に掘削することが多いが、工期短縮のため起点側と終点側を同時に掘り進む、2切羽同時掘削が行われている。底部へアーチ型にコンクリートを流し込むインバートや、壁面にコンクリートを打ち込む覆工も、金沢側、敦賀側の両方で同時進行だ。
中工区の責任者である佐藤工業の鈴木仁志氏は、「2切羽同時進行は珍しく、また斜坑が狭いため安全には特に心掛けています」と語る。発生したズリ(掘削土)の搬出は、狭い斜坑をトラックが行き交うのを避けるため、ベルトコンベアーを使用している。
「この辺りは地盤が柔らかい泥岩のため、山が崩れてこないようきちっと支保を打って、状況を確認しています」
そう語る鈴木氏は、この日も金沢方の切羽にわずかな変位を認めていた。状況はすぐに宮嵜所長へ報告され、追加の対策が施されることになった。
国内の鉄道橋最大の支間長となる細坪橋りょう
続いて、加賀トンネルの金沢方坑口に近い細坪橋りょうを訪れた。細坪橋りょうは、JR大聖寺駅の南側で国道8号と交差する橋りょうだ。狭い谷を盛土でまたぐ国道の更に上を越えるため、支間(橋脚の間隔)を長く取る必要があり、3径間エクストラドーズド橋が採用された。これは、主桁を斜めに緊張させたPC鋼材で補強する方式で、支間長を長く取ることができる。細坪橋りょうは、国道をまたぐ部分の支間長が155mで、完成すれば東北新幹線三内丸山橋りょうの150mを凌ぐ、国内の鉄道最大規模となる。
現在は橋脚の基礎を作っている段階だ。国道前後の3本の橋脚基礎は、ニューマチックケーソン工法で建設されている。これは地上で製作した函の下部に気密性の作業室を設けて地中に沈め、圧縮空気を送り込んで地下水の浸入を防ぎながら掘削作業を行う工法。この辺りのような地下水位の高い地盤でも高品質な構造物を造れる利点がある。
国道北側の斜面では、竹を斜めに割ったようなリング状のコンクリート壁が並び、安全帯を付けた作業員たちが手作業で鉄筋を組んでいる。こちらは竹割土留工法による橋脚の建設だ。山を大きく削ることなく、地山を補強しながら掘削することができる。
日本の鉄道技術を学ぶミャンマーの女性
細坪橋りょうの現場から1km余り加賀温泉駅方面に戻ると、三谷川橋りょうと大聖寺川橋りょうの現場がある。こちらはプレストコンクリートを使った一般的なPC箱桁橋だが、施工には張出架設工法が使われている。張出架設工法とは、1本の橋脚の左右に桁を数メートルずつバランスを取りながら延ばしていく工法である。
「やじろべえの腕のように、桁を延ばしていくんです」と、宮嵜所長。
「夏や秋など、増水する時期は河川内での作業ができませんし、なるべく川の断面を邪魔しないように作るのです」
これにより、河川敷内に橋脚を設置することなく架設できる。大聖寺川橋りょうは85m、三谷川橋りょうは103mという、PC箱桁橋としては長い支間長を実現した。
やはり張出架設工法で建設されている加賀温泉駅東方の動橋川橋りょうでは、若い女性作業員が片付けを行っていた。ミャンマー出身の、スーミャットウェイさん24歳だ。ミャンマーに営業所を持つ建設会社の正社員で、今年の春に来日した。
「日本で経験を積んで、将来はミャンマーに新幹線を作りたいです」
来日7カ月とは思えない流ちょうな日本語で語るスーミャットウェイさん。ミャンマーには、近年日本から中古の鉄道車両が数多く輸出されている。彼女が北陸新幹線の現場で学んだ高度な施工技術は、将来きっとミャンマーの鉄道の発展に役立つことだろう。
金沢に続けと地元の期待も大きい
翌日は、まず小松市にある花坂残土処理場を訪れた。加賀トンネルから搬出される土を盛り立てており、1日延べ200台近いダンプが出入りしている。列を成すダンプをよく見ると、新潟ナンバーもあれば札幌ナンバーもある。「沖縄のダンプもありますよ」と、宮嵜所長が笑った。まさに全国から、新幹線の建設に駆け付けているのである。
残土処理場から戻る途中、小松市の木場潟公園に立ち寄った。木場潟は、加賀市と小松市にあった加賀三湖のうち唯一干拓されずに残った調整池だ。北陸新幹線は、その西側を通過する。開業すれば白山をバックに湖を一望する絶景スポットになるだろう。既に橋脚の建設がかなり進んでいるが、この区間の基礎は斜杭基礎が用いられている。足を開くと踏ん張りが効くように、鋼管杭を3度傾けて打設することで剛性が高まる。新幹線の本線に採用されたのは、ここが初めてだという。
最後に加賀市内に戻り、第3矢田野橋りょうを取材した。県道156号をまたぐ橋で、道路を長時間規制できないため、工場で鉄製の橋桁を製作しておき、クレーンでつり上げて一晩で架設する。その後、コンクリートの床板を施工する合成桁だ。既に主桁は道路脇のピットで準備されており、11月23日の深夜に作業が行われた。
「今回ご紹介した現場のほかにも、盛土の区間や河川の付け替えなど、さまざまな現場があり、平成34年度末の開業に間に合わせるべく、すべての現場がフル稼働しています」
地元の北陸新幹線に寄せる期待も、極めて強く感じているという。「北陸新幹線の金沢開業で、金沢と北陸は大きく変わりました。自治体でも、1日も早く新幹線を作ってほしいという声を耳にします。安全をしっかり確保しながら全体をもれなく管理し、新幹線を作り上げていくという仕事に、これまで以上のやりがいを感じています」
開業まであと4年半。1年後に再訪すれば、いや数カ月後に訪れても、新幹線は今より更に完成に近づいていることだろう。敦賀開業は、もうすぐそこに迫っている。