ミリ単位の精度で進められる軌道敷設。
鉄道のまち・小松に新たなレールが伸びる
大阪支社 小松鉄道軌道建設所
北陸新幹線金沢・敦賀間の建設工事が急ピッチで進んでいる。
石川県内では明かり区間の土木工事が最終段階。
完成した路盤上では、軌道の敷設が順調に進められている。
レールが敷かれた路盤上は、いよいよ鉄道らしい姿となる。
気候と闘いながら全力で進められる、石川県内の軌道敷設工事を取材した。
文:栗原 景(フォトライター)
鉄道・運輸機構だより2021新春号
ミリ単位の精度で進められる軌道敷設。鉄道のまち・小松に新たなレールが伸びる
北陸新幹線金沢・敦賀間の建設工事が急ピッチで進んでいる。石川県内では明かり区間の土木工事が最終段階。完成した路盤上では、軌道の敷設が順調に進められている。レールが敷かれた路盤上は、いよいよ鉄道らしい姿となる。気候と闘いながら全力で進められる、石川県内の軌道敷設工事を取材した。
文:栗原 景(フォトライター)
鉄道・運輸機構だより2021新春号
順調に進む石川県内約41km区間の軌道敷設
石川県小松市は、かつて鉄道が栄えたまちだ。国鉄小松駅からは、北陸鉄道小松線や、国内有数の鉱山だった尾小屋鉱山に至る尾小屋鉄道が分岐していた。だが、時代の変化とともにこれらの鉄道は役割を終え、昭和50年代までに姿を消した。
その小松市を中心とした石川県南部地域に、いま再び新しいレールが敷かれつつある。それが、北陸新幹線金沢・敦賀間の軌道工事だ。石川県内では、令和元年度から、高架線など土木工事が完成した路盤に、軌道を敷設する工事が行われている。
金沢駅から約20km、手取川の南側に現れた高架橋を訪れると、20名ほどの作業員たちが真新しい路盤コンクリートの上で作業をしていた。敷かれたばかりのレールを、木製の台に固定している。
「作業を行うための仮軌道で、新幹線と同様の軌間1435mmで敷設します。今は、先ほど敷設したレールの固定と検測を行っていて、これからさらに200mの敷設を行います」
説明するのは、小松鉄道軌道建設所の増田竜也所長だ。令和2年4月、所長に就任した36歳。子どもの頃からの鉄道ファンで、少年時代は線路の配線を考えて、独自の鉄道を空想するのが好きだった。軌道工事のリーダーは、まさに天職だ。
小松鉄道軌道建設所は、土木工事の進捗を受けて平成30年12月に設立された。金沢市の南、白山総合車両所から石川・福井県境まで約41㎞の区間について、軌道スラブおよび軌道の敷設工事を行っている。担当区間は、起点(金沢)方から順に川北軌道敷設(約12.9km)、小松軌道敷設(約15.5km)、加賀軌道敷設(約12.7km)の3区間に分けられ、それぞれ作業の拠点となる「軌道基地」が合計4カ所設けられている。終点側に加賀トンネルがあるほかは、ほとんどが地上の明かり区間であることが特徴だ。
「当建設所は軌道敷設、分かりやすくいえば、線路に関係する設備の製造・運搬・設置を行っています」
工事の手順を簡単に見てみよう。まず、25mレールが金沢港から陸揚げされ、各軌道基地に運搬される。軌道基地ではガス圧接による一次溶接が行われ、200mの長尺レールとなる。土木工事が完了した区間では、構造物を測量して線形を確定。軌道敷設の基準器が設置される。続いて、長尺レールが工事用仮軌道として敷設されると、各種工事用車両の通行が可能となる。現在行われている作業は、この部分だ。
一方、レールの下に敷かれ、まくらぎと同じ役割を果たす軌道スラブは、新潟県上越市の工場で製造され、トラックで各軌道基地に運搬される。ここでレールをいったん軌間3mに拡大し、大型のスラブ敷設車を導入して軌道スラブを設置。緩衝材となる合成樹脂やCAモルタルを注入すると、レールを軌道スラブ上に載せる。レールは二次溶接されて約1kmの長さとなり、位置をミリ単位で調整するレール面整正を実施。さらに数十kmのロングレールにする三次溶接が行われ、微調整を経て完成となる。
「石川県内については、これまでにレールは4600本が各軌道基地に運搬され、軌道スラブも1万7000枚のうち6割ほどの製造を完了しています。約3000枚は既に敷設されており、軌道の敷設も順調に進んでいます」
最新機器と人力で慎重に行われる、仮軌道の送り出し・敷設作業
「はい高さ、オーライ! 通り、よし!」
作業員が、レールに糸を渡して定規を当てている。仮軌道が基準内に設置されているか、上下左右の精度を検測しているのだ。別の作業員は左右レールの幅(軌間)を計っている。
200m分の検測が終わると、起点方から200mの長尺レールを積んだレール運搬車がゆっくりと動き出した。新造されたレール送込み装置車を先頭に、26両の鉄製トロを連結、最後尾の動力車が押している。
「あと2m、1m、やわやわ……停止!」
先頭に立つ運転指揮掛からの無線指示によって、仮軌道の先端にレール運搬車が停まった。積載されたレールがワイヤーで送り込み装置の中に引き込まれ、ローラーでゆっくりと前方に送り出されていく。レールは1m当たり60kg、200mでは12tあり、安全には細心の注意が必要だ。
200mのレールを送り出す所要時間は約15分。2本のレールの送り出しが終わったら、木製の台にレールを固定する。また軌間と高さ・通りを検測し、作業完了となる。
「仮軌道が敷設されると、大型資材を載せた作業用車両の往来が可能となり、電化柱の建植やケーブルの設置など、さまざまな作業が本格化します」
手取川橋梁を渡って、川北軌道基地を訪れた。ここではレールの一次溶接を行っており、200mの長尺レール約100本が高架上に貯積されている。先ほどのレール運搬車は、ここでレールを積み込み、順次仮軌道を敷設していく。
高架下を見下ろすと、たくさんの軌道スラブが縦置きに並べられていた。
「ストックヤードです。軌道スラブの製造工場が200km以上離れた新潟県上越市にあるため、柔軟に供給できるよう約3000枚をストックしています」
鉄筋コンクリート製の軌道スラブは、長さ5m(一部4m)、幅2.2m、厚さ190mmの鉄筋コンクリート製の板だ。レールの下に敷いて、列車の荷重を受け止めるまくらぎと同様の役割を果たす。九州新幹線などでは、中央に穴がある低コストの枠形スラブを使用しているが、北陸新幹線の明かり区間では、穴のない平板スラブを使用する。枠形スラブは、北陸のような降雪地帯では穴に雪が溜まって施設に悪影響を及ぼすことがあるからだ。
空が夕焼けに染まる中、1日の作業を終えて帰ってきたレール運搬車を見ながら、増田所長が言った。
「先週までは、そこの工事用分岐器までしかレールがありませんでしたが、この1週間で2km延伸しました。管内の軌道工事は令和4年春の完成を予定しており、1日も早い開業に向けて、全力で軌道敷設を進めていきます」
天候・気候と闘い万全の品質を確保するCAモルタル注入作業
翌日は、小松市南部のCAモルタル注入現場を訪れた。CAモルタルとは、アスファルト乳剤にセメントと砂を混合した複合材料で、セメントの剛性とアスファルトのたわみ性を兼ね備える。路盤と軌道スラブとの間に40~60mmの高さで注入され、緩衝材の役割を果たす。その注入方法が興味深い。まず先に軌道スラブを路盤上に設置し、軌道スラブ上面の高さを調整して位置を決める。この時点では、軌道スラブは路盤から浮いた状態で保持棒によって支持される。そして、路盤と軌道スラブの間にロングチューブと呼ばれる袋を差し込み、左右の注入口からCAモルタルを流し込む。軌道スラブからの荷重が均等になるよう注入し、規定の高さになったところで止める。
軌道スラブは、路盤上に5m間隔で並んだ円筒状の突起コンクリートの間にはめこむ形で設置されるが、ボルトなどで固定されることはない。言わばCAモルタルという「座布団」の上に置かれた状態で、列車からの上下方向の荷重はCAモルタルが、前後方向の荷重は突起コンクリートとの間に注入される合成樹脂が受け止める。高速で走行する新幹線の安全性と乗り心地を担保する重要な材料だ。
それだけに、品質には細心の注意が払われる。現場に到着した直後から、にわか雨が降り始めた。雨が降るとCAモルタルの注入はできない。品質に問題が生じるうえ、CAモルタルからにじみ出た水分が雨水と混ざり流出するリスクもあるからだ。この日の作業は、残念ながら中止。万全の品質と安全性を確保するためにはやむを得ない。
加賀温泉駅まで南下した。ここは通過線を含む2面4線の駅で、終点方には保守車両の基地も建設されている。2年前に加賀鉄道建設所を取材した時(本誌2019年新春号)には橋脚しかなかった高架線がすっかり完成し、駅前後にある分岐器の敷設は完了し、その先には仮軌道が敷設された。
「地元の方に、軌道の敷設工事についてご説明する機会があるのですが、『もう線路を敷くところまできたんだね』とお声がけいただくことがあり、期待をひしひしと感じます。軌道は列車の安全性に直結する部分ですから、安全を心がけながら、正確な敷設作業を進めていきます」
子どもの頃、線路に憧れてこの世界に入った増田所長が、プロフェッショナルの表情で語った。