まちの歴史や文化と調和して
大都市・横浜の地下に姿を現す
2つの新駅
東京支社 新横浜鉄道建築建設所
神奈川東部方面線の建設が大詰めだ。
相鉄線と東急線の相互直通運転を実現する相鉄・東急直通線、羽沢横浜国大・日吉間
約10kmの土木工事が最終段階を迎え、新たに設置される新横浜と新綱島の両駅では、
出入口などの付帯設備や内装工事が急ピッチで進められている。
地上からはまだ見えない、大都市地下に現れた新駅の現状をレポートする。
文・写真:栗原 景(フォトライター)
鉄道・運輸機構だより2022年新春号
まちの歴史や文化と調和して大都市・横浜の地下に姿を現す2つの新駅
神奈川東部方面線の建設が大詰めだ。
相鉄線と東急線の相互直通運転を実現する相鉄・東急直通線、羽沢横浜国大・日吉間
約10kmの土木工事が最終段階を迎え、新たに設置される新横浜と新綱島の両駅では、
出入口などの付帯設備や内装工事が急ピッチで進められている。
地上からはまだ見えない、大都市地下に現れた新駅の現状をレポートする。
文・写真:栗原 景(フォトライター)
鉄道・運輸機構だより2022年新春号
地下駅と変電所の建築物を担当
鉄道の建設には、多くの部署が関わる。用地が確保され、工事が着工すると、まず行われるのがトンネルの掘削や高架橋の建設といった土木工事だ。ある程度進捗すると、「軌道の敷設」、「電気・信号機器の設置」、「駅舎や電気建物等の建設」、「機械類の設置」など、さまざまな工事が始まる。それぞれの分野について専門の建設所が設置され、互いに連携して一つの路線を完成させていく。
「新横浜鉄道建築建設所」は、令和4年度下期の開業を目指して建設が進められている「相鉄・東急直通線(通称ST線)」の建築工事を担当する建設所だ。令和元年7月に開設され、新横浜駅(仮称、以下「新横浜駅」)と新綱島駅(仮称、以下「新綱島駅」)という二つの地下駅と、相鉄・JR直通線として開業済みの羽沢横浜国大駅に隣接する新羽沢変電所の建築工事を担当している。このうち新羽沢変電所は先行して建設が進められ、令和元年度に竣工済みだ。
「現在は、二つの地下駅を建設しています。鉄道・運輸機構が全国で建設している整備新幹線の駅のような大きな地上の駅舎はありませんが、地下では内装工事を中心に、地上部では出入口や換気塔などの建設も行っています」
そう説明するのは、新横浜鉄道建築建設所の早﨑登所長だ。平成19年度入社の38歳。これまで九州新幹線新鳥栖駅や、北陸新幹線富山駅の設計・施工を担当してきた。平成29年からST線担当となり、令和3年4月から現職だ。
「地下駅の建設は、設計の仕方から作業の進め方まで、新幹線の駅建設とは全く違います。防災基準が桁違いに厳しくなることに加え、狭い空間で多くの部署が同時に作業に当たるため、関係各所との綿密な打ち合わせが大切です。今まさに、その最盛期にありますので、まちに新しい駅が出来上がっていく様子をご覧になってください」
天然木の温もりをコンクリートに表現
早﨑所長の案内で、新綱島駅を訪れた。東急東横線綱島駅から東に150mほど離れた、鶴見川左岸に位置する地上1階、地下4階の地下駅だ。平成30年2月に、本誌57号(2018年春号)掲載の綱島鉄道建設所を取材した時にはまだ駅空間を掘り進めている段階だったが、今では駅部については大部分の土木工事が終わり、順次駅本屋の内装工事と地上建屋の施工が始まっている。建築分野の進捗率は、令和3年12月末現在約35%だ。
「新綱島駅は、横浜市の都市計画に基づいた区画整理事業と連携して整備を進めており、路線バスなど2次交通のロータリーも整備される予定です。綱島は鶴見川沿いに発展し、桃栽培や温泉で栄えた歴史あるまちです。そこでデザインコンセプトを〝綱島の町の移り変わりを感じる駅〟とし、フロアごとに綱島の歴史を感じさせるデザインとしました。地上部は、未来につながる〝和モダン〟がコンセプトです」
早﨑所長が、ヤードの片隅に並べられた細長い木板を指さした。
「これは杉の天然木を使用した型枠です。この辺りは、横浜市の洪水ハザードマップで最大3mの浸水が想定されているため、駅出入口や換気塔などの建屋は鉄筋コンクリート造(RC造)としています。RC造としても無機質な感じにならないよう、天然木を通常の型枠に貼り合わせて建て込み、そこへコンクリートを流し込むことで、木目模様をコンクリートに写し込んでいるのです」
湿潤養生中の第一換気塔の壁には、天然木の繊細な年輪がきれいに表現されていた。モノトーンの風合を活かして塗装は行わず、最後に無色透明のクリアー剤を吹き付けて仕上げる予定だという。
あらゆる資機材の搬入口となる仮設開口
住宅街にある工事ヤードは一見広く見えるが、実は半分が区画整理事業に基づく再開発ビルの建設現場だ。
「鰻の寝床のようなヤードで、我々建築のほか土木、軌道、電気、機械といった部門が連携しながら施工しています。あちらの重機の横に、開口部があるのが見えますか」
早﨑所長が指さした先に、幅3m、長さ5mほどの四角い穴が見えた。
「あれは仮設開口といって、地下4階のホーム階まで通じています。地下での作業に必要な資材や重機などの機材は、全てあそこから搬入・搬出します。中に入ってみましょう」
地下2階に降り、先ほどの開口部の前に立った。ホーム階から地上まで、吹き抜けのような構造だ。
「資機材を搬入する時は、各階に設置されたスライド式ステージを開口部に移動して搬入します。開口部を通れるものしか出し入れできないうえ、さまざまな部門が作業をしているので、綿密な打ち合わせと、順序の組み立てが大切です」
改札口が設置される地下1階では、仮設開口から見て奥から順次内装工事が進められている。手前の作業を先に進めてしまうと、奥に資機材を搬入できなくなってしまう。限られた空間をいかに活用して、効率よく作業を進めるか。地下空間の内装工事はパズルのようだ。
地下4階のホーム階に降りた。新綱島駅は、島式ホームが一つある1面2線の駅で、ホーム延長は10両編成に対応した205m、幅員約13mの空間だ。終点方(日吉駅寄り)では、市道と住宅の下を通過する部分で土木工事が続けられているが、ホームは既に姿を現し、水色の対向壁も設置されている。
「ホーム階は綱島の歴史、つまり〝川のまち〟を表現していて、対向壁に鶴見川をイメージした水色のパネルを採用しました。改札階では、改札口正面のお客様の目にとまるところにガラスの導光板パネルで桃園のイメージを表現する予定です。周囲の壁パネルは温泉を思わせる鉱質系のテクスチャで仕上げ、地上は先ほどの木目を活かした意匠で、未来志向の〝和モダン〟を表現します」
ホームには換気設備の部品がずらりと並んでいる。地下駅は、地上駅に比べて求められる防災設備のレベルが格段に高く、特に換気設備、排煙設備は重要だ。機械部門によってこれらの機器が設置された後、建築部門が天井になる部分を作り上げていく。ここでも、部門間の連携がカギとなる。
環状2号線の地下に現れた大空間
東海道新幹線や横浜市営地下鉄と接続する新横浜駅は、相鉄線と東急線の境界となる駅だ。開業後は都心や神奈川県東部など多方面へ連絡する交通の結節点となる。JR新横浜駅北口のペデストリアンデッキとも接続する、地上2階、地下4階の構造だ。土木工事は一部を除いて完了しており、現在は駅本屋の内装工事と、地上建物の施工が進められている。進捗率は、令和3年12月末現在約75%だ。
ST線新横浜駅は、主要地方道環状2号線の地下に建設されている。中央分離帯にヤードが設置され、工事は原則としてここを拠点に行う。延床面積約2万2900平方メートルと新綱島駅の2倍以上の規模ながら、地上のヤードは限られたエリアである。大型重機を使用するため、交通量の少ない深夜に車線を変更して施工することもある。
駅への出入口は、交差点の四隅に4カ所設けられる。このうち、JR新横浜駅に近い第一出入口のエスカレーターは、ペデストリアンデッキから直接地下に入る構造だ。その第一出入口の裏から、ST線新横浜駅の建設現場に入った。地下1階の改札フロアに降りると、目の前に左右に延びる大きな壁がある。地下1・2階で交差する横浜市営地下鉄新横浜駅の躯体で、ST線に連絡する開口部が設けられている。
「ここには、以前市営地下鉄の機械室がありましたが、ST線建設にあたり支障移転していただきました。将来はお客様が通るコンコースとなり、両側にST線の改札口が配置されます」
早﨑所長が説明する。横浜市営地下鉄のホームが地下2階にあるため、ST線の乗り場は地下約30mの地下4階にある。改札口を入ると、左右に設けられるエレベーターか、正面のエスカレーターまたは階段で下の階へ。羽沢寄りのエスカレーターは地下2階で折り返しとなり、地下3階を通過してホーム階に降りる。
ホームでは、軌道の敷設が始まっていた。中央に折り返し線を設けた2面3線構造で、最大幅は28.5mと新綱島駅よりも広い。
「両駅とも、鉄道・運輸機構が地域の特徴を踏まえてデザインコンセプトを策定し、関係者の方々と相談しながら検討を進めています。新横浜駅は、東海道新幹線、横浜市営地下鉄に続く、鉄道開通による変革の第3弾として、〝新横浜Ver3.0―未来に向けて発展を続ける駅〟がコンセプトです。デザインテーマは〝自然と調和した温もりと潤いの地下駅〟で、今後は床と天井を仕上げていきます」
天井部についても新綱島駅より作業が進んでおり、鉄骨材の上に換気ダクトやケーブルが設置済みだ。ホームには、これから建築工事によって設置される木目調の天井材が準備されている。あと数カ月もすれば、床や天井も仕上がり、軌道敷設も進んで駅らしい姿になるだろう。限られた空間を隅々まで活用した構造を見学できるのは、今だけだ。
「地下駅の建設は、地上からではなかなか進捗が分かりにくいですが、見学された方は地下にこれだけの駅空間が建設されていることに驚かれます。綱島も新横浜も歴史あるまちですから、ST線が開業すれば単に相鉄線と東急線が直通する以上に便利になるでしょう。私たちが駅を作
ることで、どんなまちになっていくのか、想像がつかないこともあって楽しみです。あと約1年、安全第一で完成させていきます」
早﨑所長が言った。「新幹線の乗換駅だった新横浜」、「温泉施設もある住宅街だった綱島」が、ST線の開業によってどう変わるのか。その答えが分かる日が、刻々と近づいている。
若手職員IN&OUT ・鉄道から広がるまちづくりに興味あり
新横浜鉄道建築建設所で、新横浜駅を担当しているのが、入社3年目の澤石卓磨さんだ。秋田県出身の 25 歳。学生時代には、都市や建築が人に与える印象を分析して、暮らしやすい都市空間を創り出す建築計画設計を専攻してきた。まちづくりを学び、就職先を検討する中で、日本特有の鉄道とまちの関係に興味を抱いたという。
「日本は、鉄道の駅を起点にして都市が発展していくことが興味深いですね」
現在はST線新横浜駅担当として、受注者であるJV(共同企業体)の人々や、電気・機械など機構内の他の部署との調整や工事監理などを行っている。地下鉄駅の建設では関係各所の調整・連携が特に重要だ。
澤石さんは、横浜市内の宿舎に暮らしている。出社時刻は複数の時間から選べるが、澤石さんは8時30分出社を選択している。朝、新横浜駅に着くと、オフィス近くのコンビニで朝食を購入し、まずはその日にやることを確認する。業務は調整ごとが主だが、なるべく現場を訪れるようにしている。現場には同世代の人が多く、意思疎通もしやすい。
最近うれしかったことは、新横浜駅のホーム対向壁のデザインを任せてもらえたことだ。
「若いうちからいろいろ任せてもらえるので、今は仕事がとても楽しいです」
残業がなければ、だいたい17時に退勤する。終業後はスケ ートボード場に行って、趣味のスケートボードを楽しむことも多い。鉄道建設は好きな仕事とはいえ、普段からオンオフを切り替えられるからこそ真剣に取り組める。
「将来は、整備新幹線の建設・設計に携わってみたいです。新幹線の新駅建設では、機構が複数のデザイン案を示して、地域の人々に選んでもらうという手法をとっていますが、駅やまちを、地域の人々と一緒になって作っていく仕事ができるのではないかと思います」
学生時代の経験を活かして、駅とまちづくりに取り組む澤石さん。近い将来、澤石さんが設計に関わった駅から新しいまちが発展していくかもしれない。