武雄温泉駅(JR 九州提供)

9月23日
西九州新幹線開業!!

9月23日
西九州新幹線開業!!

9月23日、待望の西九州新幹線(武雄温泉・長崎間)が開業しました。武雄温泉駅では、在来線特急と同一ホームでの乗り換えが可能になり、博多・長崎間は最速1時間20分と、従来よりも30分短縮。各駅では開業イベントが催され、多くの人でにぎわいました。喜びにあふれた開業当日の様子をご紹介します。

西九州新幹線路線図
武雄温泉駅
嬉野温泉駅
嬉野温泉駅(JR 九州提供)
嬉野温泉駅(JR 九州提供)
嬉野温泉駅(JR 九州提供)
新大村駅
新大村駅(JR 九州提供)
新大村駅(JR九州提供)
諫早駅
諫早駅(JR 九州提供)
諫早駅(JR九州提供)
長崎駅
長崎駅(JR 九州提供)
長崎駅(JR 九州提供)

長崎駅 前夜から盛り上がる中、スタッフもギリギリまで準備作業を行う

9月22日
22:50

長崎の街が1日を終える頃、長崎駅のコンコースには、そわそわした空気が流れていました。数時間後に挙行される開業記念式典の準備が行われている横では、工事関係者が天井の配線など最後の点検を行っています。一方、自動券売機には翌朝の乗車券と新幹線特急券を購入する人が並び、駅舎の外には一番列車である「かもめ2号」の自由席に乗車を希望する人が長い列を作っています。誰もが新幹線が走り出す瞬間を心待ちにしています。

9月23日
0:17

在来線3番ホームに、特急「かもめ45号」の最終列車が到着。多くのファンが「ありがとう特急かもめ」の旗を振って迎えました。

0:30
最終列車が到着した後、構内では運賃表や案内板の付け替えが行われます。在来線コンコースの案内板からテープが剥がされると「西九州新幹線のりかえ」の文字が現れ、自動券売機の運賃表も、開業後のものに改める作業が行われていきます。

4:00
開業記念式典の受付開始。地元関係者や報道陣などが次々と集まってきました。一番列車への乗車を希望する人たちの列も駅舎内に誘導され、徐々に開業ムードが高まっていきます。

5:00
開業記念式典がスタート。長崎市出身で西九州新幹線広報大使を務める女優の長濱ねるさんが一日駅長に任命され、斉藤鉄夫国土交通大臣や大石賢吾長崎県知事をはじめ16名によるくす玉開きが行われました。

5:20
斉藤大臣と長濱ねるさんを先頭に、自動改札を初めて通過する「改札口通り初め」が行われ、続いて改札内コンコースで斉藤大臣をはじめ大石知事、田上長崎市長、河内鉄道・運輸機構理事長による祝辞が述べられました。この間に乗客の入場も始まり、一番列車の「かもめ2号」の乗客は13・14番ホームへ、入場券で列車を見送る人たちは11・12番ホームへ上がっていきます。

6:17
テープカットの後、長濱ねるさんと萱嶋長崎駅長の合図で遂に一番列車の「かもめ2号」が発車!出発の様子はかもめ口(東口)の駅前広場からもよく見え、新幹線の開業を待ちに待っていた市民からも歓声が上がりました。

6:30
一番列車は無事出発しましたが、長崎駅には続々と市民や観光客が集まってきました。三連休はまだまだ始まったばかりです。

諫早駅 諫早発!体操界のレジェンドが送る出発合図

諫早駅で一日駅長を務めたのは、諫早市出身でオリンピック2連覇、世界選手権6連覇を果たした体操界のレジェンド、内村航平さん。内村さんは、「まさか自分の町に新幹線が通るなんて思ってもいなかった。一度と言わず、これから何度も利用したい」と、感慨深そうに挨拶しました。くす玉開きには、内村さんや地元諫早市の大久保市長をはじめとする島原半島の首長が集まりました。6時26分、諫早駅では下り一番列車の「かもめ101号」と、上り一番列車の「かもめ2号」が顔を合わせます。出発式は1分早く発車する上り「かもめ2号」のホームで行われ、内村さんは、山口諫早駅長とともに右手をピンと上げ、体操競技を思わせる美しい仕草で出発合図を送りました。

新大村駅 大村・諫早両市の地元ユニットが開業を盛り上げる

大村線竹松・諏訪間に新設された新大村駅では、6時20分当駅始発の長崎行き「かもめ101号」の発車に合わせて式典が行われました。新大村駅の一日駅長は、地元大村市と諫早市の中高生から成る3人組ユニット「poppo(ポッポ)」。駅正面玄関で行われたくす玉開きには、園田大村市長をはじめ周辺地域の首長も参加し、西九州新幹線と新大村駅の開業を祝いました。続いて改札内コンコースで、大村藩伝統の五色塀を背景に園田大村市長や平田長崎県副知事らによる祝辞が述べられ、舞台は下り12番ホームでの出発式へ。井手新大村駅長と「poppo」の合計4人による、にぎやかな出発合図となり、列車が動き出すとみんなで手を振って見送りました。

嬉野温泉駅 歴史ある温泉街に、初めて新幹線の警笛が鳴り響く

1931年に肥前電気鉄道が廃止されて以来、91年ぶりの鉄道開業となった嬉野温泉駅では、鉄道好きとしても知られる女優の松井玲奈さんが一日駅長に。くす玉開きでは、嬉野出身の女優、三根梓さんも加わり、村上嬉野市長や南里佐賀県副知事らとともに開業を祝いました。出発式が行われたのは、6時42分発の上り「かもめ2号」。長崎から初めての列車が到着すると、ホームに集まった関係者や市民から歓声が上がります。テープカットの後、松井玲奈さんと中野嬉野温泉駅長が揃って出発合図を送りました。初めての警笛を響かせて発車していく「かもめ2号」。沿線きっての観光地とあって、駅前にも早朝から市民や観光客が集まり、笑顔で開業を祝いました。

武雄温泉駅4歳の” 電車大好き” 一日駅長が出発を見送る

在来線との接続駅となる武雄温泉駅で、一日駅長の大役を任されたのは、武雄市に住む4歳の岩井世運くん。電車が大好きな彼は、祖母が駅舎内でカフェを営む佐世保線上有田駅で、「ちびっこ駅長」として活動している縁から一日駅長に選ばれました。式典では、山口祥義佐賀県知事や小松武雄市長らによるくす玉開きや祝辞が披露され、舞台は在来線と新幹線の接続が行われる10・11番ホームへ。6時48分、長崎駅からの一番列車「かもめ2号」が到着し、折り返し武雄温泉駅始発の「かもめ1号」となります。山口知事や小松市長らによるテープカットが行われると、向かいの10番ホームに博多駅からの「リレーかもめ1号」が到着。スムーズな乗り換えが行われた後、7時03分、山本武雄温泉駅長と岩井世運くんが出発合図を送ります。「プワーン!」と誇らしげな警笛を鳴らし、「かもめ1号」は長崎駅に向けて走り始めました。

西九州新幹線開業!
「ママ鉄」豊岡真澄の、西九州新幹線各駅の旅

いよいよ開業した西九州新幹線。博多・長崎間は30分も所要時間を短縮し、西九州の公共交通に新しい時代がやって来ました。その開業初日に、数々の鉄道イベントや YouTube で活躍している「ママ鉄」豊岡真澄さんに旅をしていただきました。
文:豊岡 真澄 写真・構成:栗原 景

「いざ、出発」。長崎駅いなさ口の前で

駅前広場にも一番列車出発の熱気が伝わる

皆さん、こんにちは。ママ鉄の豊岡真澄です。今回、記念すべき西九州新幹線開業の瞬間に立ち会えるということで、数日前からワクワクとドキドキが止まらない日々を過ごしていました。

長崎駅は、以前一日駅長を務めさせていただいたこともある思い出深い駅です。2022年9月23日朝6時、久しぶりに長崎駅を訪れると、すっかり新しい駅ができていて感激しました。「かもめ口」と名付けられた東口広場からは、14番ホームに停車している西九州新幹線の一番列車「かもめ2号」がよく見えます。朝早い時間にも関わらず大勢の人がいて、ホームから開業式典の声も聞こえるなど、長崎駅全体が熱気に包まれているのが伝わってきました。6時17分、「プワーン!」と警笛が鳴って、列車がゆっくりと動き出します。その瞬間、鳥肌が立つほど感動しました。

新しい長崎駅に入ってみましょう。以前の長崎駅は、懐かしい終着駅という雰囲気でしたが、新しい駅は明るい高架駅になりました。壁などに煉瓦や長崎県産の木材が使われていて、とても洗練された雰囲気。新幹線が開業して、未来に向かって動き出したという印象です。

改札内コンコースに入ると、正面の綺麗なガラススクリーンが目にとまりました。長崎市の花である「あじさい」をモチーフにしたもので、市民と一緒に作ったのだとか。まちの人々が駅づくりに参加できるなんて、素敵ですね。

いよいよホームに上がります。ドーム風の白い膜屋根が特徴の、とても開放的なホームです。注目したのは、ホームの先端。私は終着駅の車止めが好きなので、大きな車止めの向こうに長崎港が見える風景に惹かれました。ゆっくり散策したくなります。

長崎駅かもめ口からは発車を待つ新幹線がよく見える
いよいよ「かもめ12号」に乗車
初めて西九州新幹線の改札口を通過
長崎市の花「あじさい」をモチーフにしたガラススクリーン
記念に「かもめ12号」を撮影

もっと乗っていたくなる指定席

初めて乗車する西九州新幹線の列車は、8時39分発の「かもめ12号」です。私は鉄道車両が好きな「車両鉄」でもあるので、新たに走るN700S「かもめ」のデザインや乗り心地をとても楽しみにしていました。基本的な形は東海道・山陽新幹線のN700Sと同じですが、内外装のデザインを担当した水戸岡鋭治さんの魔法で、全く別の車両に見えます。特に、車体に毛筆で書かれた「かもめ」の文字が印象的です。これは青柳俊彦JR九州代表取締役会長の直筆だそうです。今は武雄温泉駅までの開業で、博多へは在来線の「リレーかもめ」が接続しています。

私が乗車したのは、2号車の指定席。6両編成中3両の指定席は2×2列のゆったりとしたシートで、背もたれもフカフカとしていて、まるでグリーン車のようです。シートのデザインも1両ごとに異なり、2号車は「獅子柄」をイメージしたグリーンのシート。床がさまざまな草花の柄なのもおしゃれです。

長崎駅を出発した「かもめ12号」は、諫早駅を発車すると武雄温泉駅までノンストップ。終点・武雄温泉駅までの所要時間はわずか24分で、もっと乗っていたくなりますね。

武雄温泉駅では、在来線の「リレーかもめ」と同じホームで接続します。向かいのホームに来たのは、1992年に水戸岡鋭治さんが初めてデザインした特急型車両である787系です。西九州新幹線と顔を合わせた787系は、まるで後輩を見守る大先輩のよう。乗り換えを便利にするために新幹線と在来線を1本のホームに並べるなんて、すごいアイデアですね。乗り換えもスムーズで、すぐに大勢のお客さんを乗せて発車していきました。

武雄温泉駅の新しい駅舎は、1,300年の歴史を持つ、武雄温泉の歴史を感じさせるデザインです。武雄温泉のシンボルであり、東京駅と同じ辰野金吾氏が手掛けた楼門のデザインを活かしているそうです。確かに出入口の丸みを帯びた壁がよく似ています。

「かもめ8号」の出発を見送りました
ホームとドーム風屋根構造
ゆったりとしたシート
新大村・嬉野温泉間で見える畑と大村湾
武雄温泉駅は、温泉のシンボルである楼門がモチーフ
駅前の噴水広場
朱色の楼門は、東京駅と同じく辰野金吾氏がデザインを手掛けた

市民による手作りの作品が出迎えてくれる

10時発の「かもめ13号」に乗って、隣の嬉野温泉駅まではわずか6分。お茶の産地だけあって、ホームに降りると茶畑が見えてうれしくなりました。ぜひ見てほしいのが改札内コンコースのパネルです。一見タイルの色で川を表現した作品に見えますが、よく見るとタイル1枚1枚に川の生きものが描かれているんです。市民が描いたもので、タイルは地元の特産である肥前吉田焼。本当に多くの人が参加していて、地域の人たちにとって待ちに待った新幹線であることを感じました。私も、息子や娘と一緒に描いた絵を新幹線の駅に飾ってもらえたら、一生の思い出になるだろうな……。西九州新幹線沿線の人たちがとてもうらやましく思えました。

駅前には温泉を使った「手湯」があります。ちょうどよい湯加減で、すぐに手がすべすべしてきました。広々とした駅前広場ではお祭りが開かれていて、屋台で特選嬉野茶をいただきました。口に含むとふわっとお茶の香りが広がって、後味はすっきり。早速家族へのおみやげに買っちゃいました。

12時14分に到着した新大村駅は、駅舎がとても印象的です。空に向かって広がるような逆三角形のデザインは、「大村市の明るい未来」を表現しているのだそう。落ち着いた色味の壁は、大村市の文化財である五色塀に使われる海石を表現しています。色と風合いにこだわりがあって、特に赤の壁は試行錯誤を重ねたそうです。改札内コンコースには、その五色塀が再現されています。私は鉄道だけでなくお城も大好きなので、こうした歴史ある壁を見ると、お城を連想してワクワクします。

特急券を記念にもらいました
嬉野温泉駅にある「川の生きもの」をテーマとしたトイレ前の展示。当地ではナマズが信仰の対象
嬉野温泉駅前にあった「手湯」
駅で記念に配られた嬉野茶
市民が制作した折り紙アート
市民が折り紙で作った新幹線
新大村駅内にある展示。大村に伝わる五色塀を再現した
諫早駅内にある、市民によって作られた押し花アート

世界新三大夜景のシンボルになる長崎駅

諫早駅に到着すると、在来線のホームにこの日から運行を開始した「ふたつ星4047」が停車していました。長崎県と佐賀県の海を眺めながらスイーツや料理を堪能できる観光列車で、駅の人からいただいた旗を振って、発車を見送りました。

諫早駅は、西九州新幹線では唯一の地上駅。大きなガラス窓が特徴の明るい駅で、コンコースには四季折々の花を「湯江紙(ゆえし)」という地元の和紙で挟んだ押し花アートのガラススクリーンがあります。これも市民との協働で作られたもの。どの駅にも、そのまちの人々が作ったハンドメイドの作品があって、温もりを感じさせてくれるのが素敵だなと思いました。16時55分に長崎駅に戻った後は、日没に合わせて駅の近くにある稲佐山展望台へ。ここから眺める長崎市内の夜景は、上海、モナコと並ぶ「世界新三大夜景」に選ばれています。辺りが徐々に暗くなり、新しい長崎駅の灯りが浮かび上がってきました。膜屋根が駅の灯りを透過するので、夜景では一際美しく見えます。

1日かけて西九州新幹線の駅を訪れましたが、どの駅でも地元の方々が笑顔で歓迎してくれるのが印象的でした。これから、きっと全国から多くの人が西九州新幹線で佐賀県と長崎県を訪れることでしょう。私も、これから何度も乗りに来たいと思います。

稲佐山からは長崎駅が浮かび上がって見える