場所打ちライニングとセグメントを随時切替可能な覆工切替式シールド機による経済的なトンネル施工の実現 ―神奈川東部方面線、羽沢トンネル―
鉄道・運輸機構東京支社、大成・東急・大本・土志田相鉄・東急直通線、羽沢トンネル他特定建設工事共同企業体
令和2年度 土木学会賞 技術賞(Ⅰグループ)※土木技術の発展に顕著な貢献をなし、社会の発展に寄与したと認められるインフラの計画、設計、施工または運用やメンテナンス等の画期的な個別技術。
セグメントからSENSへの換装
覆工構造は、起点側・終点側では重要構造物基礎に近接するためセグメントとし、中間部では土被り20m以上の安定した上総層群の掘削となるため経済性に優れたSENS(シールドを用いた場所打ち支保システム)による、場所打ちライニング構造としました。このため、1台の掘進機でセグメント区間とSENS区間を連続で掘進可能とする換装技術を考案しました。
1.概要
神奈川東部方面線事業は、相鉄・JR 直通線(以下、「SJ 線」と称す)相鉄本線西谷駅と羽沢横浜国大駅間の延長約2.7kmおよび相鉄・東急直通線(以下、「ST 線」と称す)羽沢横浜国大駅と東急東横線・目黒線日吉駅間の延長約10.0kmの二つの連絡線を整備するものです。このうちSJ 線は令和元年11 月30日に開業し、現在は令和4年度下期の開業に向け、ST 線の工事を進めています(図1)。
図1 神奈川東部方面線路線図
本事業のうち、SJ線の西谷トンネル及びST線の羽沢トンネルは、整備新幹線の山岳部の建設工事で開発適用してきたシールドを用いた場所打ち支保システム(以下、「SENS」と称す)を都市部で初採用しました。市街地部の地下水位低下を抑制するため非排水構造とし、全周に防水シートを採用するとともに(図2)、重要構造物に近接するため、安全性の確保と経済性を追求すべく、シールド工法とSENSの覆工切替式シールド機を開発しました。
図 2 都市部でのSENS 標準断面
2.場所打ちライニングとセグメントを随時切替可能な覆工切替式シールド機による経済的なトンネル施工の実現
羽沢トンネル(延長3,150m)では、起終点の重要構造物の基礎に近接する区間はセグメント構造とする必要がありました(図3,4)。このため、1台の掘進機で、起終点でのセグメント区間と、中間部のSENS区間を連続して掘進するシールド機と換装技術を新たに考案しました。主な技術上の成果は、以下の通りです。
図3 羽沢トンネル地質縦断 換装位置
図 4 セグメント採用区間の重要構造物
1)SENS施工時に使用の妻型枠をセグメント施工時に妻型枠ジャッキの中胴部へ格納
・SENS施工時は場所打ちライニングのための内型枠とスキンプレートの間に円周状に妻型枠を設置することになりますが、セグメント施工時には妻型枠がセグメント組立と干渉するため、換装時に着脱する場合には複雑な作業と長時間を要します。
・そこで、妻型枠をシールド機前方のジャッキとスキンプレートの間に格納する構造を考案し、SENS施工時には妻型枠を引き出すだけの作業で精度の高い換装をスムーズに行うことを可能としました。
図5 覆工切替時の妻型枠の中胴への格納
2)ジャッキ推力の法線分力によるセグメントの変形防止
・SENSとセグメント施工の併用機としたことで、セグメント施工時にはジャッキ偏心量が325mmになり、ジャッキに曲げモーメントが生じ、偏心荷重によるジャッキ推力の法線分力が生じ、セグメントを押し広げ、継ぎ手に不具合が生じる可能性が懸念されました。
・この対策としてジャッキの作用点をヒンジ構造とした特殊スプレッダーの採用とジャッキロッドの太径化を行い、セグメント断面にかかる推力を均一にするとともに、摺動板の設置や接地面へのテフロン板の取り付けにより法線分力を低減し、セグメントの変形と継ぎ手への不具合発生を防止しました。
図6 ジャッキ推力による法線分力の影響
3)テールブラシとステンレス板の交換を容易にするスキンプレートの凹化
・セグメント施工時のテールブラシはSENS施工時には妻型枠に支障するため、ステンレス板に変える必要があり、スキンプレートの一部を凹化し、ステンレス板とブラシの交換が容易な構造を考案しました。
図7 スキンプレートの凹化
4)地中換装時のスキンプレートテール部からの確実な漏水防止
・換装時は掘進時の止水機構が機能しなくなるためスキンプレートテール部の漏水対策が課題となりました。
・セグメントからSENSへの換装時には、地上からの注入と合わせて、テールブラシ撤去時の止水を確保するために新たにエンドパッキン(ワイヤーブラシ)を考案し、機械的な止水を確保した後にテールブラシを撤去できるようにしました。
・SENSからセグメントへの換装においては、場所打ちコンクリートの硬化を確認後、エンドパッキンを切断し妻部に養生鉄板を溶接することで確実な止水性を確保しました。その後、テールブラシを設置しました。
図8 スキンプレートテール部からの確実な止水
3.まとめ
本トンネルの実績により、山岳トンネルで開発採用されたSENSが、初めて都市部でのトンネルにも適用可能であることを示しました。1台の掘進機により、覆工をセグメントと場所打ちライニングが併用できるようにしたこと、また、地中での換装技術を確立したことで、経済性に優れたSENSの適用範囲を、幅広い地形、地質条件のトンネル工事に拡大したものであり、合理的なトンネル建設技術の発展に大きく寄与するものと期待されます。