信号
信号設備は、列車の衝突や脱線などを防ぎ、列車を安全かつ効率的に運転するための設備であり、代表的なシステムとして軌道回路、自動列車停止装置(ATS:Automatic Train Stop)、自動列車制御装置(ATC:Automatic Train Control)、連動装置、列車集中制御装置(CTC:Centralized Traffic Control)などがあります。
軌道回路
線路をレール絶縁などにより一定区間に区切り、それぞれの1区間に1列車以上の進入を許さないことを「閉そく」といいます。この「閉そく」により列車の衝突を防止し列車の運転の安全を確保しており、これを実現するための装置が"軌道回路"です。軌道回路には下記の機能があります。
- 列車の位置検知
2本(左右)のレールを列車の車軸(車輪と車軸)で電気的に短絡することを利用して列車検知します。図1に軌道回路の原理を示します。
列車がいない場合には、送信端から送り出された信号電流は、受信端まで導通されているので、受信端に設けた受信器は電圧があり、「列車なし」として判断します。列車がいる場合には、車軸により左右レールが短絡されることにより、受信器へ電気が流れなくなるため、受信器は電圧がなし、「列車あり」として判断します。
図1 軌道回路の原理 - 情報伝達
軌道回路に送り出す電流を利用して、その電流に電気信号として情報を持たせ、列車でその電気信号を読み取ることにより、列車の運転台に車内信号を現示することができます。ATC(下記で説明します)はこのように軌道回路を用いて列車へ情報を伝達しています。
また、機構は関係各社と共同で新幹線用無絶縁軌道回路を開発し、東北新幹線(八戸・新青森間)に設備しました。無絶縁軌道回路は、地下鉄やつくばエクスプレスなどのATC区間での実績がありましたが、新幹線では軌道回路長が長いなどの特徴から構成することが難しいとされていました。無絶縁軌道回路の特徴は、レール絶縁などを必要とせず軌道回路を構成できるので、保守性の向上や乗り心地改善につながります。
ATSとATC
列車は自動車に比べ、ブレーキをかけてから止るまでに長い距離が必要です。速い速度で走っている時は、前を走っている列車が見えてからブレーキをかけても間に合いませんので、かなり手前から列車があることが分らないと安全に走ることができません。このため鉄道では、前方に列車があることをレールを利用した電気回路(軌道回路)で検知し、信号機で運転士に知らせています。その方法は大きく分けて、地上に信号機を設置する方法と、運転台に信号機を設置する方法の2つがあります。
地上に信号機を設置する方式では、運転士は青色(進行)信号が見える時は前の列車が遠くにあると分かり、最高スピードで走ります。黄色(注意)信号が見えたら前の列車に近づいているので、時速45km(または時速55km、鉄道路線によって違います)までスピードを落とします。赤色(停止)信号が見えたら前の列車にかなり近づいているので、ブレーキをかけ赤色信号の信号機手前に止まらなければなりません。図2に閉そくと信号機について示します。
図2 閉そくと信号機
この他に信号の色の組合せにより青色と黄色が同時に点灯(減速信号)している時は時速65km(または時速75km)、黄色が二つ点灯(警戒信号)している時は時速25kmなどの信号も使っています。信号機の位置や信号の種類は、列車のブレーキ性能や線路の勾配などを考慮して設計しています。平成22年7月に開業した成田新高速鉄道線(印旛日本医大・成田空港駅間)では、青色信号を時速130kmで走る信号とし、青色が二つ点灯(高速進行)している信号を青色信号より速い最高速度160kmで走る信号としています。図3に信号機の灯色配置の一例を示します。
図3 信号機の灯色配置
地上に信号機を設置する方式を用いた線区において、たとえば運転士が赤色信号を見落してブレーキをかけなかった場合や、黄信号までに時速45kmまで速度を落せなかった場合に、自動的にブレーキをかける装置がATSです。
運転台に信号機を設置する方式では、列車が安全に走行できるスピードを指示する速度信号用電流をレールに流し、列車の先頭車に取り付けた「受電器」で受信して、運転台に信号を示します。この方式をATCといい、線路にカーブが多く地上に信号機を取り付けても離れたところから見えない地下鉄や、スピードが速くて地上の信号機を確認するのが難しい新幹線などに使用しています。さらにATCでは、運転士に信号を示すだけでなく、地上から受けた速度信号よりも列車のほうが速い場合には、自動的にブレーキをかけて速度信号以下に制御しています。
また、最近ではATCの一種として、スピードを示す信号ではなく、前を走っている列車の位置を示す情報を列車に送ることにより、列車が自分の走っている位置を把握しながら、前を走っている列車との間隔によってスピードを制御する方式も開発され、平成14年12月に開業した東北新幹線の盛岡・八戸間で採用し、平成22年12月開業予定の八戸・青森間でも採用しています。また、九州新幹線の新八代・鹿児島中央間において同様の方式を採用し、博多・新八代間でも採用しております。図4にATCによる列車停止パターンを示します。
図4 デジタルATCによる列車停止パターン
連動装置とCTC
鉄道の駅には、列車の衝突・脱線を防止するために「連動装置」が設備されています。連動装置は、列車の進路を構成するため転てつ器を必要な方向に転換し、進路が構成されると信号機に青信号を点灯させるよう指示を出します。
この連動装置には、永年、電磁リレーの組み合わせを用いた「継電連動装置」が使われてきましたが、近年これに代わってコンピュータを用いた「電子連動装置」が開発され、すでに多数導入されています。
従来の電子連動装置は、駅毎に設備され、信号機、転てつ器などを制御しています。また、図5のように、各駅を指令所から遠隔制御するために、指令所にCTC中央装置を、各駅にCTC駅装置を設備しています。
機構(旧鉄道公団)が開発した「線区集中電子連動装置」は、指令所に電子連動論理部を、各駅には信号機、転てつ機などに直接つながる電子端末を設けることにより、 1組の電子連動装置で複数駅の信号機および転てつ器などを制御することができ、さらに、図6のように、指令所と各駅のCTC装置を省くことができます。
平成11年1月に開業した井原線にこのシステムを初めて導入しました。この方式により9駅を制御することで、信号設備の経済性と信頼性の向上が図られました。
なお、本システムは、平成14年7月に開業した土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線や平成19年3月に開業した仙台空港線においても導入されています。