トンネル
トンネルは、造られる場所によって山岳トンネルと都市トンネルに分類され、山岳トンネルは、一般にNATM(ナトム:New Austrian Tunneling Method の略)と呼ばれる工法で施工されます。この工法は、その名前からもわかるようにオーストリアで開発されたもので、吹付けコンクリートとロックボルトを主な支保工とし、地山の持っている空洞保持能力を有効に活用してトンネルの安全を確保する工法です。従来の工法に比べトンネル空間を保持する支保工が小さく出来ることから、トンネル施工費の大幅なコストダウンが可能となります。鉄道公団(現 鉄道・運輸機構)は、上越新幹線の中山トンネルの掘削工事にこの工法を我が国で始めて導入し、工法の優秀性を実証するとともに、日本の地質に適した山岳トンネルの経済的な施工法を確立しました。
都市トンネルの施工法には、開削工法、シールド工法及び都市NATM等が有ります。
開削トンネルは、地表面から掘り下げて行く工法で、大規模な構造物となる地下駅の施工によく用いられます。シールド工法は、駅間のトンネルの施工に主として用いられますが、最近では地下駅の施工にも適用されるようになっています。都市NATMは、都市トンネルのコストダウンを図るため、山岳トンネルの標準工法であるNATMを応用して都市トンネルを掘削する工法で、地表の建物等への影響を無くすため様々な改良がなされています。 以上、トンネルの施工法について述べてきましたが、これらの代表的なトンネルとして次のものがあります。
トンネル断面図
ダイナマイト装填作業
掘削した"ずり"の積込作業
大型マシンによるNATM
北陸新幹線五里ヶ峯トンネル
北陸新幹線(高崎~長野)の五里ヶ峯トンネル(15.2km)は、典型的な山岳トンネルで、陸上トンネルとしては国内で4番目(完成時)の長さのトンネルですが、新幹線の開業時期との関係で3年半で完成させる必要があり、トンネルの掘進速度は150メートル/月以上を確保しなければなりませんでした。しかし、山岳トンネルの掘進速度は、地質にもよりますが、100メートル/月を確保することも困難な状況であり、従来の掘削システムを離れ、大型機械を導入した新しい掘削システムを構築する必要がありました。このため、写真のような大型機械を導入するとともに、長孔発破、前方探査のためのシステム化した水平ボーリング等を採用して、新たなトンネルの掘削システムを構築しました。この結果、目標を上回る平均月進160メートルを確保するとともに、最大月進281メートルの驚異的な記録を打立てました。
大型油圧さく岩機(発破やロックボルトの施工のため、岩盤に小さな孔を開ける機械)HD150型を6台搭載した6ブームガントリージャンボです。トンネルでは、さく岩機を搭載した機械をジャンボと呼んでいます。通常は3台のさく岩機を搭載した機械が使用されますが、ここではさく岩時間を短縮して施工サイクルを向上させるため6台を搭載したガントリージャンボを使用しました。ガントリーとは鋼製の枠のことで、前後の移動をスムースに行えるよう仮設のレール上を走行します。マイクロコンピューターで自動的にさく岩方向を決めることができます。
6ブームガントリージャンボ
発破で切り崩したズリは、トンネルの外へ搬出しますが、この搬出時間を短くすることもトンネルの作業効率を上げるために重要な事項です。これは大型ダンプトラックですが、幅約10の狭いトンネル内で方向転換が行えるよう前輪と後輪の間に補助輪を装備しています。方向転換時にはこの補助輪を支点に、車体を折り曲げて方向を変えることができます。
大型ダンプ(写真左)
シールド工法による地下鉄トンネル
長距離掘削のJR東西線淀川トンネル
都市部に造られるトンネルを都市トンネルと呼びますが、シールド工法は開削工法と並んで都市トンネルの代表的な施工法です。地下鉄建設の初期には開削工法が主に用いられてきましたが、開削工法は、地上から地山を掘削するため、地上の交通や建物等に与える影響が大きいことから、現在では駅部分は開削工法で、駅間のトンネルはシールド工法で掘削されるようになっています。
シールド工法は、シールドと呼ばれる円形の鋼製の筒で空洞を保持しながら、鋼製の筒の前面に取り付けたビット(地盤を掘削する刃物)で地山を掘削する工法です。従来、その施工距離は、ビットの摩耗等により1000メートル程度にとどまり、シールドトンネルの工費を押し上げる形となっていました。淀川トンネルは、淀川を地下40メートルで横断する延長2325メートルのトンネルですが、大きな水圧がかかる厳しい施工条件のもと、ビット交換なしでトンネル全長の掘削を行い、長距離シールド掘進の新技術を確立してシールドトンネルのコストダウンに大きく寄与しました。
シールド機械
完成したシールドトンネル
市街地道路直下での都市NATM
東葉高速鉄道 習志野台トンネル
NATMは山岳トンネルの標準工法ですが、シールド工法や開削工法に比べ断面を変更して掘削することが容易に行える特徴を持っています。一般には山岳部のトンネルのような硬い地山で用いられる工法ですが、鉄道公団(現 機構)では都市部の軟弱な地盤にNATMを適用して経済的に都市トンネルを施工する工法・CRD工法を開発しました。CRDはCross Diaphragm の略で、トンネルの周辺地山を極力緩ませないよう掘削断面を左右上下に分割して施工する工法です。この工法の採用にあたっては種々の計測と解析を実施し、断面の分割数及び分割断面の掘削順序等、詳細な検討を行っています。この写真はCRD工法を応用して施工した東葉高速鉄道の北習志野駅ですが、交通の輻輳する駅前通りの下10メートルの砂山の中に位置しています。
北習志野駅前通り
施工中の北習志野駅