巨礫を含む地質に適用するパイプルーフ工法の開発(九州新幹線、諫早トンネル)

鉄道・運輸機構、戸田建設株式会社

令和2年度 土木学会賞 技術賞(Ⅰグループ)※土木技術の発展に顕著な貢献をなし、社会の発展に寄与したと認められるインフラの計画、設計、施工または運用やメンテナンス等の画期的な個別技術。

パイプルーフ施工状況

従来では隣接するパイプルーフ(鋼管)に継手部を設けますが、本トンネルでは、軟質な地層の中に硬質な巨礫が存在するため、継手部が巨礫に支障した場合、継手部の破断等により掘進不能となることが想定されました。そこで継手の代わりに裏込めをラップさせて接合部を構成する「裏込ラップ工法」が考案されました。

1.諫早トンネルの概要

諫早トンネルは、整備が進められている九州新幹線(武雄温泉・長崎間)において、JR諫早駅付近の市街地に位置し、交通量の多い国道207号等の直下を土被り3.5mで通過する延長230mの山岳トンネルです。国道部分は、25,000 /日の交通量があるだけでなく、上下水道、電力、通信、ガス等多数の埋設管も敷設されているため、小土被り区間に一般的に採用される開削工法の適用は困難と判断しました。そのうえで、種々検討の結果、本区間においては、幹線道路への交通規制や各種埋設管の付け替え工事等の社会的影響を回避するため、山岳トンネル工法を適用することとしました。その上で、交通荷重の保持、道路面の沈下抑制及び埋設管の機能保全を目的とした対策工として、パイプルーフ工法(Φ800㎜、L=60m×15本)を採用しました。

施工平面図

諫早トンネルは、諫早市内の幹線道路となっている国道207号を土被り約3.5mで通過する線形となっており、トンネルは、長崎方へ向かって掘削しました。


2.本トンネルで開発したパイプルーフ工法の独自性

パイプルーフ工法を土被りの小さいトンネルに適用する場合、隣接して施工するパイプルーフ(鋼管)の隙間からの湧水や地山の崩落が懸念されます。これを防止するため、隣接するパイプルーフに継手部(ジャンクション)を設け、接合しながら掘進することでパイプルーフ間の隙間を解消するのが従来の工法でした。軟弱層においては、継手部を接合しながら圧入掘進することができますが、本トンネルの掘削対象地山は、直径10㎝~100㎝の硬質な礫(一軸圧縮強度130MPa以上、礫混入率4050%)と軟質な基質から構成されていたため、継手部が巨礫に支障した場合、継手部の破断等により掘進不能となることが想定されました。このため、継手による接合に代わるパイプルーフ間の隙間を確実に塞ぐ工法の開発が課題となりました。この課題に対して、継手の代わりに裏込めをラップさせることで接合部を構成する「裏込ラップ工法」を考案しました。本工法は、鋼管間の離隔を5㎝に設定し、先行パイプルーフの裏込め部を後行マシンで切削しながら掘進し裏込材同士をラップさせていくことで、鋼管間の確実な空隙充填により密実性を高めるものです。さらにパイプルーフ施工後には、鋼管に1m間隔で設置した補足注入用のグラウトホールから地山状況を目視確認するとともに、補足裏込材を圧力注入することで、隙間を確実に塞ぐことができます。なお、本工法の施工にあたっては、精度の高い掘進管理が求められることから、掘進機は上下・左右方向に±1.5°の範囲でリアルタイムに方向修正が可能な機械を採用するとともに、今回ICT による3次元推進精度管理システムを開発したことにより、高精度な掘進管理を実現しました。

トンネル断面図

パイプルーフは、本線左側端部で試験施工を行った後、2台の掘削機を使用して上図番号の順番に施工しました。



裏込めラップ工法概要図

「裏込めラップ工法」は、先行パイプルーフの裏込め部を後行マシンで切削しながら掘進し、裏込め材同士をラップさせ、かつパイプルーフ間に補足裏込充填を行い隙間を改良することで、パイプルーフ間の隙間を確実に遮閉する工法です。



3.社会への貢献度

本工法の開発により、巨礫を含む軟質な地質条件下において、隙間を確実に遮閉したパイプルーフの構築が可能となり、国道の交通規制による社会的影響を回避するとともに、多数敷設されている重要埋設管に影響を与えることなく、山岳トンネル工法によるトンネル掘削を安全かつ工期内に終えることができました。


4.将来の発展性

これまで、小土被りトンネルにパイプルーフ工法を採用する場合、鋼管間に継手を設ける必要がありましたが、継手部はマシン切削できず、圧入によってのみ推進することから、硬質な地質ではパイプルーフ工法の適用に限界がありました。しかし、本工法の開発により硬質な巨礫を含む地質への適用を拡大したことにより、今後は様々な地質に対してパイプルーフ工法を適用することが可能となります。これに伴い、山岳トンネルにおける対策工選定において、より合理的な工法選択ができ、良質な社会資本整備に寄与するものと期待されます。

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