複数事業の連携による公共交通主体型まちづくりの推進―富山駅における路面電車南北接続―
富山県、富山市、鉄道・運輸機構
令和2年度 土木学会賞 技術賞(Ⅱグループ)※土木技術の発展に顕著な貢献をなし、社会の発展に寄与したと認められる画期的なプロジェクト。
北陸新幹線富山駅開業(平成27(2015)年3月14日)
コンパクトシティ政策を象徴するこのプロジェクトは、富山県、富山市、鉄道・運輸機構の三者がそれぞれ異なる事業主体として施行する複数事業間での綿密な連携により実現したもので、鉄道・運輸機構は北陸新幹線の整備主体となっています。完成した富山駅は地域間交通・地域内交通・都市交通等が集まる一大結節点であり、それぞれの交通モードと市街地がすべて同一平面でアクセス可能な構造となっています。
1.異なる事業主体間の複数事業連携の意義
令和2年3月21日、富山駅における路面電車南北接続事業が完成し、富山駅を境に南北に分断されていた路面電車が接続、直通運転が開始されました。富山市のコンパクトシティ政策を象徴するこのイベントは、富山県、富山市、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)の三者がそれぞれ異なる事業主体として施行する複数事業間での綿密な連携により実現したものです。完成した富山駅は地域間交通・地域内交通・都市交通等が集まる一大結節点であり、公共交通を軸とした次世代型まちづくり政策のポテンシャルを大いに引き出すインフラストラクチャーといえます。
富山駅における路面電車
2.富山県の取り組み...連続立体交差事業
富山駅付近においては、在来線鉄道によって市街地が南北に分断されていたうえ、鉄道と交差する道路の容量も十分でなく交通の阻害が発生していた。富山県はあいの風とやま鉄道線(旧JR 北陸本線)の連続立体交差事業を通じて鉄道による市街地の分断を解消、道路の新設および改良を実施し、駅周辺の効率的な土地利用と一体的な発展の促進に寄与しています。加えて富山港線のLRT 化と連携することで広大な在来線鉄道用地をスリム化、北陸新幹線の建設用地と駅前広場の開発用地を捻出しつつコスト縮減にもつながっています。制度面においては、踏切除去の生じない連続立体交差事業の適用第一号であったことが特筆されます。これは、平成12年に創設された「踏切道等総合対策事業」により、踏切に限らず拡幅計画のある道路アンダーパスについても連続立体交差事業の対象として要件が緩和されたことによります。このスキームにより、富山駅付近連続立体交差事業は大きく前進することとなりました。
あいの風とやま鉄道線連続立体交差事業の施工ステップ
富山駅周辺においてはアンダーパスにより踏切除却が完了していましたが、道路容量の不足により交通の阻害が発生していました。本事業においては「踏切道等総合対策事業」を活用し、拡幅計画のある道路アンダーパスを踏切と同等と見なすことで踏切除却のない連続立体交差事業の適用第一号となっています。あいの風とやま鉄道線(旧JR 北陸本線)立体交差化に合わせて鉄道用地をスリム化することでコスト縮減も実現しつつ、北陸新幹線と駅前広場の用地を確保、また路面電車の南北接続も可能となりました。
3.富山市の取り組み...富山港線LRT 化、路面電車南北接続
富山市は世帯当たりの自動車保有率が高くかつ人口集中地区における人口密度が低いという典型的な自動車依存都市であり、中心市街地の空洞化に加えて高齢化により自動車の運転が困難な住民の増加が課題となっていました。このような背景を踏まえつつ将来を見据えた都市政策として、富山市はコンパクトシティ政策を推進し「串とお団子」に例えられる公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりを進めています。その一環で実施された富山港線のLRT 化は「串」としての利便性を高めるものであり、利用者数がLRT 転換により劇的に増加するなど、大きな効果をあげています。中心市街地では市内電車環状線の新設が行われ、コンパクトな中心部の再形成を促進しています。富山港線LRT 化を決断するまでには入念な検討がなされ、結果として在来線鉄道用地がスリム化され、新幹線事業・連続立体交差事業の進捗に寄与しました。連続立体交差事業により市街地の南北分断が解消されることを見据えた路面電車の富山駅乗り入れ・南北接続事業は、富山駅の交通結節点としての機能向上、新幹線から市内交通への乗継改善だけでなく、富山港線LRT の市内中心部への直通運転により交通ネットワークの機能強化も図られ、都市の魅力をさらに向上させるものです。また、鉄道によって分断されていた路面電車が駅構内かつ平面で接続された例は世界的にも少ないと考えられます。新生・富山駅の空間設計には都市計画側のトータルデザインが反映されており、駅内に乗り入れる路面電車と一体化した施設配置が図られています。この連携施策の実現には富山駅内の自由通路を都市計画決定するという手法が用いられており、今後の都市計画行政に大いに示唆を与えるものです。
富山市が目指すコンパクトシティ
人口減少・高齢化時代を見据え、自動車に頼らない公共交通を軸としたまちづくりを推進。JR 富山港線のLRT 化は公共交通の利便性向上・利用増に繋がっただけでなく、在来線鉄道用地のスリム化、駅前広場空間の捻出にも寄与しました。路面電車南北接続事業によって世界でも例の少ない駅構内における路面電車の平面接続が実現し、富山港線LRT が市内中心部に直通することでさらなる利便性向上と都心部の機能強化が図られています。
4.鉄道・運輸機構の取り組み...都市側と連携した新幹線建設
北陸新幹線の建設主体である鉄道・運輸機構は、富山県・富山市の事業と連携して工程調整を図り、狭隘な施工空間において着実に新駅整備を完成させました。また新生富山駅の設計・建設にあたっては路面電車の駅構内乗り入れ・南北接続を充分に考慮した駅空間デザインとし、地域交通へのアクセスを大幅に改善、快適かつ便利な駅空間を創出しました。
駅前広場が整備され路面電車が駅内に乗り入れる富山駅
鉄道・運輸機構では、これまでの新幹線建設の実績を活かし、連続立体交差事業と連動した施工調整を行い、狭隘な空間で駅整備を実施。富山駅の設計は路面電車の導入空間を考慮し、交通結節点として全体的な調和が得られるように意識しました。まちの玄関口として来訪者にわかりやすい・使いやすいだけでなく、市民にも愛され、快適かつ満足度の高い空間を創出しました。
5.まとめ
以上のように、富山駅において異なる事業主体が連携して取り組んだ鉄道・軌道整備および結節点整備は、富山市のまちづくり政策のポテンシャルを最大限に引き出すものです。都市計画分野における優れた先進事例として公共事業への評価を大きく向上させており、国に先んじて将来を見越した都市計画政策という視点からも優れたプロジェクトです。また完成した富山駅はそれぞれの交通モードと市街地がすべて同一平面でアクセス可能な構造となっており、世界的な駅前広場の設計思想において新たな潮流にも乗るものです。これらの成果は国内におけるモデルケースとなり土木技術の発展および土木技術の社会的評価の向上に貢献していくことが期待されます。